インターネットはしばしば海に例えられる。

博物館付属の公的研究機関のデータベースに不正アクセスが行われ大量の情報が流出したという事件はニュースサイトの片隅にほんの数行掲載され、すぐに消え去った。掲載期間を超過した記事は検索エンジンのキャッシュにタイトルとリード文のみをわずかに残し、リンクを辿ってもその全貌を把握することは不可能になった。
語り合う友人も読むべき本も無い手持ちぶさたな時間、端末のスイッチを入れるのは今では誰にとっても当たり前の習慣になった。画面もろくに見ないまま通信用のアプリを起動させれば、液晶の中には他人の言葉ばかりが溢れだす。日常の会話から何かの主張、根拠の無い噂話から、ちょっとした詩や小説まで。魚たちの吐くあぶくのように、言葉は溢れて消えていく。

かつてこの世界には人間を食う恐ろしい巨人が存在していたので人々は壁の中で暮らしていましたが、その証拠は今も政府や権力者たちによって巧妙に隠され続けています。

神話にも似たその奇妙な言葉は当初こそ異様な印象を与えたが、耳目を集めるための言葉は多すぎて、あっという間に忘れられてしまった。ばかばかしい、と誰もが思った。壁なんて、一体どこにあるというのだろう。

フォローしているアカウントの一つが妙な文字列を吐き出していると気付いたのは、手持無沙汰な時間、いつも通りタイムラインをぼんやり眺めている時だった。

FILE 1102-11-004: Click here to download →(https://t.co/D9rCWVMdrQ)  #進撃短歌

— 進撃短歌@3月上旬電子版配信予定 (@AttackOfTanka) 2016年3月12日

クリックした文字列の先には聞き覚えのある電子データの購入サイトが現れる。どうやらウィルスなどの悪質なものではないらしい。
「壁外拾得物 分類番号1102-11-004」。そう記載されたデータのプレビュー画面に表示されているのは古い紙をそのまま取り込んだようで酷く読みづらかったが、殴り書きのような乱れた文字は目の奥に引っかかるような、奇妙な残像を残す。デスクトップに現れた圧縮ファイルをクリックすると中には画像ファイルがひとつ、ぽつりと転がっていた。

研究所のデータ流出事件は容疑者不詳のまま時効が成立し、その知らせは誰の目にもとまらず流れ去った。
海の水は世界を巡り、蒸発し、雨となって降り注ぎ、海へと帰る。インターネットが海ならば、流れた膨大な言葉はどこへ行くのだろう。何十年、何百年と流れたその先で、誰かの指先を濡らすことはあるだろうか。
壁なんてどこにもない、と貴方は思う。そんなものは無い、自分はいつだってどこへでも行ける。

 だけど青いあおい、まるで物語のような海なんて、貴方はもうずっと見ていない。

……壁の中にいる二千年後の貴方は、そうしてこの手帳を手に入れる。

FILE 1102-11-004: Click here to download →(https://t.co/D9rCWVMdrQ)  #進撃短歌

— 進撃短歌@3月上旬電子版配信予定 (@AttackOfTanka) 2016年3月12日